東京高等裁判所 昭和33年(く)102号・昭33年(く)103号
被告人 小山雄央
〔抄 録〕
論旨は、原決定は請求人の略式命令の告知手続に違法があるとの主張に対する判断遺脱の違法がある、というのである。よつて、原決定(本件正式裁判請求権回復の請求を棄却した決定)を査閲すると、原決定は、請求者に対する公職選挙法違反被告事件記録編綴にかかる送達報告書によつて略式命令謄本が昭和三十三年八月十日午前十一時五十分に請求者の住所に送達されたこと、及び右送達の日時に請求者は不在であつたが、正式裁判申立の期間中である同年八月十七日略式命令の謄本を手にしたことを認定し、正式裁判請求の期間は右送達の日から十四日後である同月二十四日までであるから、請求者はこの期間内に正式裁判の請求をなすにつき十分な時間の余裕があつたものであるとして、結局、本件請求を棄却していることが明らかであり、したがつて、原決定は本件略式命令謄本が請求者本人の住所に送達されている以上適法な送達があつたものとしているものといわなければならない。しかしながら、略式命令の謄本の送達については、起訴状の謄本の送達の場合と同様に、その謄本が単に被告人の住所に送達された一事をもつて直ちに適法な送達があつたものとすることができないことは、刑事訴訟規則(第六十三条)がこれらの書類について確実に被告人に手交されることを期するために郵便に付する送達を認めていない法意に照しても明らかなところであつて、もし送達をなすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、事務員、雇人又は同居者であつて事理を弁識するに足る知能をそなえた者に書類を交付すべきものであることは刑事訴訟法第五十四条により刑事訴訟に関する書類の送達について準用される民事訴訟法第百七十一条第一項の規定するところであるから、この手続に従わない送達は、もとより適法な送達とはいい難く、したがつて受送達者が現実にその書類を受領するまではその送達としての効力を生じないものといわなければならない。これを本件についてみるに、この点に関する原審の事実取調の結果によれば、本件略式命令の謄本は郵便による送達によつてなされたものであつて、世田谷郵便局勤務の郵便集配人小林吉三郎により昭和三十三年八月十日午前十一時五十分頃被告人である請求者本人の自宅で、請求者本人不在のため、折柄同所に居合わした佐久間隆男に手交されたものであり、同人は請求者の事務員、雇人又は同居者でもなく、請求者の甥に当る者であつて、たまたま請求者方に来訪しており、請求者及びその家族の者が不在であつたため、右小林吉三郎の求めにより、郵便送達報告書に請求者の認印を押捺して請求者に対する略式命令謄本の交付を受けたものであるが、その際右小林吉三郎は佐久間隆男が請求者の事務員、雇人又は同居者であるか否か及びその氏名をも確かめず、漫然同人を請求者の家族であると速断し、かつ家族の場合はこれを本人に送達したものとなすべきであるとして、同人の差し出した請求者の認印を郵便送達報告書の書類受領者の署名又は押印欄に押印してその送達を了したことが明らかであるから、右の送達はまさに請求者の住所に送達されたというだけであつて、請求者に対する適法な送達としての効力を生じ得ないものといわなければならない。しこうして、前記佐久間隆男は請求者に対する本件略式命令の謄本を受領した後これを請求者方の状差しに差し入れたまま帰宅し、その旨を請求者に連絡することなく、失念し、一方請求者は同年八月十七日に至り、自宅四畳半の間の状差しを整理中、はじめて本件略式命令の謄本が送達されていることを実見したものであることは原審における証人佐久間隆男及び請求者本人の各供述により認め得るところであり、記録上他に右認定を左右すべき資料は存しないから、本件略式命令の謄本の送達は請求者においてこれを手にした右八月十七日にはじめてその効力を生ずるに至つたものというべく、したがつて、本件略式命令に対する正式裁判請求権回復の申立と共になされた昭和三十三年八月二十八日付正式裁判の申立はその法定期間内になされたものというべきであり、これを不適法として棄却すべきいわれは存しないから、右正式裁判の申立を棄却した原決定は、すなわち、取消を免れないものといわなければならない。
(坂井 荒川 山本長)